インタビュー/アツギ 取締役執行役員 研究開発統括 鶴 博次氏~技術力の勝負~

アツギの鶴博次氏は糸から製品開発まで、すべての物作りを統括管理するアツギ技術者集団の最高責任者。過去20年、コスト追求を求め日本メーカーは生産の海外拠点化を加速させ、その結果、国内では製造部門に携わる技術者が次々と姿を消してしまった。国内生産は空洞化し技術者が不足し、市場では流通業者に対しコスト(下代)を安くするプレゼンのみが横行している。ストッキングはすでに実用品化し差別化が困難な製品になってしまったのか。創業70周年を迎え「技術力の勝負」と力説する技術部門の責任者鶴博次氏にその当たりを伺った。

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-変わる消費者の買い場と製品開発

最近感じるのは消費者のストッキングを買うところが変わってきたということ。これまではGMSや百貨店が中心だったが、いまでは靴下のSPA(靴下専門店)、ドラッグ、コンビニ、ディスカウント、それにECが増えている。われわれもそこで買う客層に合わせた商品開発を進めている。ドラッグストア向けには医薬品に近い外見や機能、3000アイテムあるとされるコンビニでは通常のパッケージでは通用しない新しいものなど販路ごとにパッケージから製品の機能まで開発を続けている。
今年の春には大手コンビニチエーンのリブソックスでうちの開発提案したソックスが採用された。着用感の良さと口ゴムが通常の2倍に伸びる編み地を開発しズレ落ちない機能など2つの特許申請された技術が内蔵された製品だった。これは、アツギが長年研究開発してきた技術が認められた結果で、社内の技術スタッフも喜んで士気が上がった。これからは、コストではなく技術力で勝負する時代だと感じている。
-技術者の時代
最近では技術者が不足している。ストッキングや靴下を作るための機械メーカーもなくなった。靴下やストッキング製造機械メーカーではロナティ社(イタリア)しか残っていない。メディカル向けにはドイツの機械メーカーメルツ社だけになっている。その最新の機械は世界のどこでもお金さえあれば買えるが、買えばすぐにでも良い製品ができると考えると大変な間違いだ。その機械を使い、製品を作るには素材(糸)のこと、カバリングや編み地のことが分かる技術者がいて初めて機械を動かすことができる。ロナティ社のエンジニアは優秀だが、彼らは機械を動かす専門家だが、その動かす時に使う素材(糸)のこと、作り出す編み地に関しては専門家ではない。機械を購入し設置してもすぐにはまわらないということはこういうことだ。アツギでは新しい機械を購入し設置した後に、われわれが作りたい開発したい目的用途に合わせて、機械を動かすプログラム(ソフトウエア)を独自仕様にアレンジし、機械を動かすようにしている。機械はロナティ社のものだが、そのプログラムを、アツギ独自に作り替えることで自分流のオリジナル製品を作り上げている。
-開発と品質管理
技術者の時代、開発力の勝負となると問われてくるのが開発と品質、スピードの問題。その課題にアツギは世間で想像される以上の力を注いでいる。現在、本社(海老名市)とむつ工場(青森県むつ市)、中国煙台工場、同第二工場の4カ所に品質管理部を置いている。本社は品質管理部スタッフが20人おり検査機器は公的機関と同じくフル装備している。このグループ内4カ所の品質検査室と公的検査機関を入れた5カ所の検査機関で毎月1回、目合わせを実施している。堅牢度、汚染、摩擦、変退色など6項目を同じ製品で検査し、その判定結果の違いが出ると、なぜ同じもので違う判定が出るのか、その原因を究明し検査能力を高める作業を続けている。これは、目に見えないが、アツギが持つ力だと考えている。うちは繊維メーカーとして天然素材から合繊素材までいろんな素材を扱っているが、どの素材を仕入れても、それを独自に検査し品質の悪いものが使われないようにしている。例えば綿40番手の糸を紡績メーカーから購入すると、すぐに糸を分解して検査する。そうすると毛足の短い1㎝未満のくず糸が多く含まれていることもある。安くコストを押さえるために綿糸にくず糸を多く混ぜていることが多いが問題はその割合だ。これは、検査しないと分からない。糸は外見での違いはないからだ。うちでは、糸は必ず分解して品質管理を徹底している。

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-研究開発棟を作る
今年春に研究開発棟を作った。そこには最新の靴下やストッキングの機械を設置し、そのスタッフも社内で経験と技術レベルの最も高い6名を配置した最精鋭部隊だ。カバリングや編みのことなら何でも分かる専門家が揃う。この研究棟設置の目的は3つある。ひとつは他社にない新製品の開発、②その開発スピードを高めること、③技術者の育成だ。社内のマーケティング部や原料メーカーからの提案をいち早く形にして、工場の試作課に指示を出しサンプルを作る。 そして、将来有望な若い技術者をここに集めて育てる。技術者の養成はすぐにはできない。最低でも10年から20年はかかる。そのなかでも開発者となれる技術者はわずかしか出てこない。
-冬や夏用ストッキングを
これからのストッキングはこだわりと本物の価値を実現する。ストッキングは春と秋には黙っていても売れるが、夏になると蒸れるので売れなくなる。冬になると暖かさが求められタイツに変わる。だが、そんな夏でも冬でも履けるストッキングができたら年間商品としてビジネススケールが広がる。ストッキングは、技術力で強度、通気性、保温力を解決できれば需要はまだ広がる。鶴博次取締役執行役員研究開発統括4

アツギ  鶴 博次氏

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